独立住宅の自然換気に関する実験的研究
その3 気密性能と上下温度差の関係に関する測定結果

1 序
 建築物の換気は、大きく自然換気と機械換気に分けられる。機械換気システムに関し ては、既に数多くの研究がなされているが、自然換気に関しては、気象条件等により複 雑に影響を受けること等から、その計算方法や設計手法の詳細が未だ確立されていない 。自然換気は、外部の風向風速と室内外の温度差により生じる。特に外部の風向風速は 時々刻々変化するものであり、この風力による換気性状を明らかにすることが極めて重 要である。
 本研究では、モデル化された実大の実験住宅を広闊地に設置し、この実験住宅の換気 性状と外部風向風速の統計的性状を明らかにし、建築物の換気設計資料を蓄積すること を目的とする。本報では、研究概要と暖房時の上下温度差と気密性能の関係に関する測 定結果を報告する。

2 実験概要
2.1 対象地域(図1
 対象地域は、定常的に風が吹いており周囲の状況が広闊である ことが望ましい。更に、風速の鉛直分布(高さ方向の風速分布)が安定している地域で あることが条件である。このため、平地で周囲が田畑と低層住宅に囲まれている新潟県 新津市荻川を対象地域とし、実験住宅を設けた。
2.2 実験対象施設
 住宅は、気密に作られており天井裏、床下に空間を持つ。外壁面、 天井面、及び床面の計6面には、隙間をモデル化した直径50mmの通気パイプが各9個ず つ合計54個設けてある。天井裏2面と床下4面の各外壁面には直径150mmの通気ダクトを 2本ずつ設置している。また、外壁面にはそれぞれの通気パイプと通気ダクトに付属す るように風圧板(図2)が取り付けてある。
2.3 測定方法 
(1)風速の鉛直プロファイル 風洞実験との比較のために、対象地域の風速の鉛直プロ ファイルを測定する。測定には、ドップラーソーダ風向風速計を用いる。
(2)外部の風向風速 実験対象住宅の近傍の外部風向風速を三杯型風速計、超音波風向 風速計を用いて測定する。三杯型風速計は、風速測定用ポールの地上高さ1〜5mに1 m間隔で5点、超音波風速計は、地上6mの位置に設置する。測定は、1秒毎にデータ を取り、10分間毎の平均とする。
(3)温度・湿度 実験対象住宅の室内温度21点及び室内湿度1点、外気温度を7点、外 気湿度1点の測定を行い内外温度差を算出する。また同時に、室内の上下温度差も算出 する。測定は10分毎に行う。
2.4 実験条件
表1に実験条件を示す。

3 測定結果

3.1 時間変動
 ケース1,2,4,5の測定期間中の外部風向・風速、室内外温度差、 室内上下温度差の時系列データを図3に示す。期間中の外部風速は、各ケースとも0〜 10m/sと変動が大きい。5m/s以上の外部風は北から西の方向から、5m/s以下の外部風 は南西から東の範囲から吹いている。
3.2 室内外温度差と上下温度差の関係
 室内外温度差と上下温度差(床上1575mmと525 mmの温度の差)の関係を図4に示す。上下温度差は、ケース1が0〜20℃、ケース2が 0〜15℃、ケース4で0〜12℃、ケース5で0〜10℃と有効開口面積の減少とともに徐 々に温度差が小さくなる。つまり、気密性能が向上すると上下温度差は小さくなると言 える。また、ケース1,2,4では室内外及び上下温度差にはある程度正の相関が見ら れるが、ケース5では相関係数が0.17となり明確な相関は見られない。
4 まとめ
 実物大の住宅モデルを対象に各測定を行った。結果として、
1. 外部風速が大きくなると室内外温度差が小さくなる。
2. ケース1,2,4では室内外温度差と上下温度差には相関が見られるが、ケース5で は明確な相関は見られない。
3. 気密性能が向上すると室内の上下温度差は小さくなる。