東北地方を対象とした太陽光発電の有効性の検討
@ 研究目的
現在、温室効果ガス(主に炭酸ガス)の増加による地球温暖化現象や酸性雨などの環境問題が深刻化している。このため、化石燃料の代替エネルギーの一つとして発電時に炭酸ガスを排出しない太陽光発電システムが注目されている。
この太陽光発電システムは
(1) 太陽の出ている日中にしか発電ができない。
(2) 発電量が天候の影響を受ける。
(3) 電力需要に応じて発電量を増減することができない。
などの欠点がある。
従って、太陽光発電の経済効果、環境負荷低減効果を評価するためにはAMeDASなどの気象データを用いて各地域における発電量を予測する必要がある。
また、太陽光発電システムを有効利用するには、住宅で使用されるエネルギー消費量と太陽光発電量とを比較する必要がある。本研究では東北各県の住宅に太陽光発電システムを導入することによる経済効果、二酸化炭素の排出削減量による環境評価を行い、太陽光発電システムの有効性を検討することを目的としている。
A
太陽光発電システム
太陽光発電システムは、電力会社から供給される電力とあわせて使用できる系統連系システム(余剰電力が生じた場合、電力会社の配電線に逆潮流し買い取ってもらうことができるシステム)とする。(図1)
また、売電した電力を太陽光発電量が低下する冬季に深夜電力で買い戻すシステムと仮定する。これは、日中発電した電気を安価な深夜電力で買い戻すことによる経済効果の可能性を検討するためである。
B
太陽電池パネル
(1) 太陽電池セル(図2)
太陽電池は太陽からの光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を持つ最小単位となる太陽電池セルが基本となっている。太陽電池セルは約10p角の板状のシリコンにpn接合を形成した半導体の一種である。太陽電池セルはそのままでは発生電圧が低いことから太陽電池セルのままで用いられることはない。
(2) 太陽電池モジュール(図2)
数十枚の太陽電池セルを耐候性パッケージに納めて構成されたもの。
(3) 太陽電池アレイ(図2)
太陽電池モジュールを組み合わせ、屋根に設置した太陽電池全体をいう。太陽電池アレイでは、複数枚の太陽電池モジュールを直列、並列に接続して必要な直流電圧と発電電力が得られるように構成する。
C 対象住宅の概要
対象住宅は、新潟市に建つ標準的な木造二階建ての住宅。(図3)
D 全国の年間太陽光発電マップ(図4)
日本海側に比べ、太平洋側で発電量が大きい。また、平野部から山沿いに行くに従い発電量は小さくなる。
地域的には、北海道や東北の山沿いで約2〜3MWh/年と発電量が最も小さく、札幌では2.93MWh/年、秋田では2.80MWh/年となる。
関東から南側の平野部では3〜4MWh/年程度の発電量となり、発電量の最も大きい地域は甲府、静岡で約4MWh/年である。
E 年間電力消費量に対する年間太陽光発電の割合(図5)
対象住宅で年間に消費される冷暖房・照明等用電力消費量に対して太陽光発電量がどの程度の割合を占めるかをあらわしたマップである。
どの地点においても冷暖房・照明等用電力消費量の約10〜25%を太陽光発電による発電量で賄うことができる。
F 全国各地の太陽光発電による経済効果、地球環境への影響
北海道、東北地方の日本海側及び山沿いの暖房負荷の大きい地域では、太陽光による発電電力で暖房用電力料金のすべてを賄うことは不可能であるが、その他の地域では太陽光発電のみで暖房負荷を賄うことができる。(表1)
CO2、SOX、NOXの排出削減量は太陽光発電量に比例しており、発電量の大きな地点では削減量も大きくなる。各都市で大幅な削減が可能であり、環境への効果は大きい。(表2)
G 東北地方における太陽光発電システム導入のための電力消費量調査
現在、東北地方に実際存在する東北7県の住宅において表に示す調査の協力の得られた120戸を対象として電力消費量の計測を行った。計測期間は1994年4月から1995年3月までの各住戸における電力消費量の計測を行った。(表3)
そして、調査を行った120戸の住宅に太陽光発電システムを導入すると仮定し、太陽光発電量と電力消費量とを比較し、太陽光発電システム導入の評価を行う。また、太陽光発電システム導入による経済的効果及び環境負荷低減効果を検討する。
H 住宅で消費される電力量の年変化
新潟県における1住戸あたりで使用される電気の消費量の年変化を図6示す。
新潟県では夏季の8月30日(1640Wh)に1年間で最も多い電気の消費量となる。一方、宮城県では冬季の1月30日(1401Wh)に1年間で最も多い電気の消費量になる。
I 電力消費量ピーク日における太陽光発電量との比較
電力消費量は午前から午後になるにつれて徐々に増大し、午後6〜10時にかけて最も多くなる。太陽光発電は午前5時頃から発電を開始し、正午頃に最大発電量となり、午後6時頃に発電を終了する。(図7)
新潟県では電力消費量が年間最大ピークとなる8月10日は天候が悪いため、太陽光発電量による電力消費量の削減効果は低い。しかし、冬季のピーク日は天候に恵まれ、太陽光発電量は多く、午前8時頃から午後3時頃にかけてかなりの余剰電力を生じている。
J 太陽光発電システム導入による経済効果、環境負荷低減効果
東北各県の1住戸あたりの経済効果は各県とも太陽光発電システム導入後は導入前に比べ、55〜85%程度の電気料金を削減することができる。(図8)
また、太陽光発電により年間に6〜7万円の電気料金を削減することが可能である。
東北全県の燃料使用削減量は太陽光発電システム導入により、それぞれ60%程度の削減が可能である。(図9)
以上の研究成果により太陽光発電システムは経済的にも環境的にも大変有効なシステムであることがわかった。しかし、太陽光発電による発電量は地域差が大きく、関東以南の太平洋側の平野部では多くの発電量が見込めるが、東北地方の日本海側や山間部では発電量が大幅に低下する。また、太陽光発電は天候に左右され、常時安定した発電量を得られるわけではなく、技術的課題も多い。