新潟県の住宅における室内化学物質汚染に関する調査研究
1.研究目的
近年、新築住宅を中心に、床材や壁紙、塗料などの建築材料や生活で使用する殺虫剤や防腐剤などを起源とする化学物質の室内空気汚染(いわゆるシックハウスシンドローム)が問題となっている。本研究では、新潟県の一戸建て住宅を対象として、室内空気質に関するアンケート調査及び室内における化学物質濃度の実態調査を行い、住まい方やシェルター性能と室内空気質(ホルムアルデヒド濃度とVOC’s濃度)の関係を明らかにする。又、新築住宅を対象として室内におけるVOC’sの放散量を定量的に測定し放散量の時間変化を明らかにする。
2.研究概要(表1)
2.1 調査対象 : 新潟県各地域の一戸建て木造独立住宅110戸を対象とする。
2.2 測定概要 : ホルムアルデヒドの分析には高速液体クロマトグラフを使い、VOC’sの分析にはガスクロマトグラフ質量分析計(写真1)を使用する。 居住者が普段暴露されている室内環境の化学物質濃度を測定するため、窓の開閉や換気、冷暖房設備の運転状況は特に定めず、居住者の方に普段通りの生活をするようにお願いした。
2.3 アンケート調査 : 住まい方と室内化学物質濃度の関係を明らかにする為、アンケート調査票を各住戸に配布、回収する。
2.4 新築住宅における化学汚染物質の測定方法 : VOC’sの住宅全体の放散量を調べるため、排気ファンにより常時一ヶ所から強制排気し、排気空気中のVOC’sの濃度を測定する。排気空気のVOC’sの濃度と排気風量から、住宅全体のVOC’sの放散量を算出する。排気ファンを運転開始、8時間後に測定を開始する。測定中は窓やドアを閉鎖し室内の間仕切りは全て開放する。排気量は、350m3/h(換気回数1.55回/h)であり、この時の室内外圧力差は約1mmAqである。
3.調査結果
3.1 アンケートの調査結果
図1 室内の空気質の良否
図2 空気質が悪いと感じる要因
図3 家のほこりの有無
図4 掃除の頻度
図5 殺虫剤の使用の有無
図6 香水の使用状況
図7 化粧品の使用状況
図8 世帯全体で喫煙する1日の煙草の本数
図9 アレルギーでの通院の有無
図10 アトピー性皮膚炎患者の有無
図11 シックハウスの知識の有無
図12 化学物質過敏症の知識の有無
3.2 化学物質濃度測定結果
(1)ホルムアルデヒド濃度の累積頻度:
全住戸のホルムアルデヒド濃度の累積頻度を図13に示す。厚生省のホルムアルデヒドのガイドライン(0.08ppm)を超える濃度が約30%の住宅で測定されている。
(2)トルエン濃度の累積頻度:
居間で約1週間暴露した有機ガスモニタによって測定した室内空気のトルエン濃度の累積頻度を図14に示す。厚生省のトルエンのガイドライン値(0.07ppm)を超えている住宅は2件である。
(3)ホルムアルデヒド濃度と隙間の相当開口面積の関係:
築年数5年以下の住宅で隙間の相当開口面積が小さい住宅では相対的にホルムアルデヒド濃度が高い傾向がみられる。
3.3 新築住宅における化学汚染物質の実測結果
化学物質と建材の関係:
この住宅(表2、図16)では、合板はF1を使用している。しかしこの住宅は化学物質について細かく配慮された住宅ではない。また既に家具が設置されており、家具からも化学物質が放散されていると考えられる。この住宅では、ビニルクロスは塩化ビニル製で、更にビニル樹脂用接着剤を使用している。特に放散量の多いα-ピネンは、建材として用いられている合板及び、天井板から放散したものと考えられる。また、スチレンは断熱材の他、畳等からも発生していると考えられる。
図13 ホルムアルデヒド濃度の累積頻度
図14 トルエン濃度の累積頻度
図15 築年数、隙間相当開口面積とホルムアルデヒド濃度との関係
図17 α‐ピネン、β‐ピネン、スチレン、m,p‐キシレン、
図18 TVOCの放散量
4.まとめ
(1)今回調査した住宅の約6割の住宅が「シックハウス」、「化学物質過敏症」いう言葉を知っており、室内空気質の関心が高まっている。
(2)築年数5年以下の住宅で隙間開口面積が小さい住宅では、ホルムアルデヒド濃度が高くなる傾向がみられる。
(3)室内温度の上昇に伴い、VOC’s放散量も増加し、室内温度とVOC’s放散量には相関関係がみられる。
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