o 基本必要換気量と設計必要換気量の考え方と算出方法

o算出法の基本的考え方

4.1 算出法の基本的考え方
(1)室内の汚染質発生量およびその混合状態を考慮し、居住域の汚染質濃度をその設計基準濃度以下に保持するに必要な換気量を確保しなければならない。この換気量を設計必要換気量という。
(2)汚染質の混合状態は、@定常完全混合状態と考えられる場合と、Aその他の混合状態に区別する。
(3)基本必要換気量は定常完全混合として(1)式により算出する。
=M/(C−C)  ・・・(1)
ここに、
  Q:基本必要換気量[m3/h]
  M:室内における汚染質発生量[m3/h]
  C:取り入れ外気の汚染質濃度[m3/m3
  C:室内の汚染質設計基準濃度[m3/m3
(4)室内に複数の汚染質の発生がある場合は、それぞれの発生源ごとに汚染質の種類および発生量を十分調査し、表−1に示す汚染質ごとに(1)式を用いて換気量を算出し、これらの換気量のうちの最大値を基本換気量とする。
(5)設計必要換気量は(2)で示した混合の状況により
@室内が完全混合状態と考えられる場合には基本必要換気量を設計必要換気量とする。
Aその他の混合状態の場合は、廃気捕集率などの換気効率指標を考慮して完全混合と考えて算出した基本必要換気量を増減 する。ただし、その際用いられる換気効率指標は信頼性の高いものでなければならない。
 本規準においては、室内の汚染質濃度をその設計基準濃度以下に保持するための必要換気量を2段階で求める。すなわち、室内での汚染質の混合状態を定常完全混合と仮定し、必要な換気量(基本必要換気量)を求める。次に、実際の汚染質の混合状態を考慮して必要となる換気量(設計必要換気量)を求める。
 ”設計必要換気量”は換気設計時に空間に対して要求される換気量である。
 基本必要換気量および設計必要換気量の算出方法の手順を図−1に示す。


記号等の説明
:汚染源の種類の数(例えば、人間だけの場合n=1、人間と煙草と開放式燃焼器具がある場合はn=3)
:発生する汚染質の種類・量の全ては明確でない汚染源の種類の数(例えば、人間と煙草と発生する汚染質の種類・量が明確な開放式燃焼器具がある場合はm=2)
:汚染質の発生量[m3/hなど](例えば、COの発生量はM<CO2>と記し、総揮発性有機化合物(TVOC)の発生量はM<TVOC>と記す。また汚染源の種類が複数である場合、すなわちn≧2の場合、集計したものをΣMで表わす。さらに総合的指標としてのCOの扱いは特別で、発生する汚染質の種類・量が明確でない汚染源のみについて総合的指標を用いるのでM<CO2’>と表記している。発生する汚染質の種類・量の全てが明確な汚染源についてはM<CO2’>がゼロであると考えても良い。)
:取り入れ外気の濃度[m3/m3あるいはppm](例えばCOの取り入れ外気の濃度はCO<CO2>と記す。)
:設計基準濃度[m3/m3あるいはppm](例えばCOの設計基準濃度はCi<CO2>と記す。但し、COについては、総合的指標の設計基準濃度をCi<CO2’>とし、単独指標の設計基準濃度をCi<CO2>として区別する。)
:必要換気量[m3/h](例えばCOから算出される換気量をQp<CO2>と記す。但し、COについては、総合的指標から求められる換気量をQp<CO2’>とし、単独指標から求められる換気量をQp<CO2>として区別する。)

(1)必要換気量の基本的考え方
 本規準においては、必要換気量は発生汚染質量とその汚染質の設計基準濃度(健康影響を考慮して決められた汚染質濃度の上限値、従来の許容濃度に相当する)により決定されるべきものであるという考え方を換気設計の骨子としている。すなわち、室内の汚染質濃度を常に設計基準濃度以下に保持するためには、室内における発生汚染質の種類や量はその室の用途や使用状況によって異なるので、これらを十分調査し、汚染質の種類や量に対応した換気を行うべきとしている。したがって、室内の在室人員が同じであっても必要換気量は状況により大きく異なる場合がある。
(2)汚染質の混合状態
 室内での発生汚染質の種類や量および換気量が同じ空間であっても、室内空気の流れの状況は対象空間の大きさ、給排気口の位置関係、温度分布などに大きく影響され、また、空間内の汚染質濃度に分布が生じるため、人が暴露される汚染質濃度はそれぞれの室で同じになるとは限らない。また、局所排気装置のある場合には、発生汚染質量の一部が直接室外に排気され、発生量がそのまま室内に拡散されるわけではないので、室内の汚染質濃度は局所排気装置のない場合とは当然異なる。本規準においては、汚染質が完全混合状態でない場合等も考慮し、必要換気量を2段階に分けて算出する。これにより、従来の完全混合に基づく算出法に加え、十分に流れの状況が検討され、信頼性の高いデ−タに基づいて求められた換気効率指標(規準化居住域濃度、廃気捕集率など)の適用を可能にするものである。
(3)複数の汚染質に対する必要換気量の取り扱い
 空間内での対象汚染質発生量とその汚染質の設計基準濃度から、空間内での汚染質の完全混合を仮定して必要換気量を算出する。この場合、発生するすべての種類の汚染質に対して換気量を求め、その最大値を必要換気量(これを基本必要換気量と定義する)とする。最大値を基本必要換気量とすること以外に、それぞれの汚染質に対して算出された換気量をすべて合計し、その値を基本必要換気量とすべきであるという考え方もある。これは、個々の汚染質の人体に対する害が同じ影響として累積されることを懸念する場合に適用される考え方である。日本産業衛生学会では、労働環境で複数の有害物質が混在する場合の取り扱いに関して、毒性が単純に相加されると想定される場合には上記の累積概念を適用している。しかし、一般室内環境で想定される低濃度の複数の汚染質の害が相加的に作用するという一貫した医学的知見はない。また、この問題に関して国際的に合意された判断基準がない現状では、累積概念は適用せずに、最大値を基本必要換気量とする。ただし、将来、この分野に関する新たな知見が蓄積され、相加作用が明らかにされたり、合計値を使用しないために問題が生 じたなど の事例が現れれば、最大値の適用に関して速やかに検討し直すことは当然必要となる。
(4)基本必要換気量、設計必要換気量の算出手順
 本規準においては空間に対する必要換気量の算定は2段階に分けて行なう。図−1に算出の手順が示されている。
 まず第1段階として、空間内での対象汚染質発生量とその汚染質の設計基準濃度から、空間内での汚染質の完全混合を仮定して必要換気量を算出する。この場合、発生するすべての種類の汚染質に対して換気量を求め、その最大値を必要換気量(これを基本必要換気量と定義する)とする。基本必要換気量を求める際に用いる設計基準濃度は4.2に述べるように二酸化炭素に関しては、総合的指標としての設計基準濃度と健康影響に基づく単独指標としての設計基準濃度の2つの値を汚染発生源からの汚染質の種類・量の特定のされ方によって使い分けることに注意が必要である。すなわち、ある汚染発生源から発生するすべての汚染質の種類・量を特定できる場合には、単独指標としての設計基準濃度を用い、汚染質の種類・量を完全には特定できない場合には、総合的指標としての設計基準濃度を用いることとする。このような二酸化炭素についての2つの設計基準濃度の使い分けの方法については図−1に、更に5.には基本必要換気量の算出例も含めて記述している。
 第2段階では、汚染質の拡散状況が真に完全混合と見なせるかどうかを検討する必要がある。検討の結果、完全混合と見なせる状況ならば、第1段階で算出した基本必要換気量を設計必要換気量として考える。一方、完全混合と見なすことができないような空間内の流れの状況が予想される場合あるいは局所排気装置などの使用のため、室内での汚染質発生量がそのまま室内への拡散量と考えられない場合には、空間特性、流れの状況を十分検討して求められた換気効率指標(規準化居住域濃度、廃気捕集率など)を考慮し、第1段階での基本必要換気量を増減し、これを設計必要換気量とする。
 この算出の考え方によれば、完全混合と見なすことができない混合状態の時は、第1段階の基本必要換気量よりも設計必要換気量が多くなる場合と少なくなる場合が生じる。例えば適切に設計された局所排気装置を用いた場合には、一般的に第1段階で算出した基本必要換気量を用いると室内濃度は設計基準濃度よりも低くなることが予想される。
 前述したように、本規準においては信頼性の高いデ−タに基づいて求められた換気効率指標の適用を可能にしているが、現状の調査・研究の進展状況は種々の空間や換気方式に対する換気効率指標のデ−タの蓄積が十分とは言えない面もある。換気効率指標の適用に当たっては、実験やCFD(計算流体力学)などに基づいた信頼性の高いデ−タを用いなければならない。
(5)フロ−図の補足説明
@〜A:本規準案では居室を取り扱っており、必ず人間がその中に存在する。また、人間(あるいは人間の活動)から汚染質が発生するので、人間を汚染源と考えなければならない。従って汚染源の種類(n)は常に1以上である。その他、人間以外の汚染源がある場合、例えば人間と煙草と開放式燃焼器具がある場合はn=3となる。
I〜L:汚染源が人間だけの場合の基本必要換気量の算定方法を示している。Iでは、人間の活動状態や取り入れ外気のCO濃度が標準的な状態(M<CO2>:0.02m3/(h・人)、CO<CO2>:350ppm)であれば、Jのように参考値(30m3/(h・人))と人数から換気量を算出する。人間の活動状態や取り入れ外気のCO濃度が標準的な状態でない場合は、KLのように、人間の活動状態からCOの発生量M<CO2>を設定し、また、当該地域の外気のCO濃度(CO<CO2>)を調べ、次式(本文(1)式の再掲)から基本必要換気量を算定する。
=M/(C−C)
この時、総合的指標の設計基準濃度はCi<CO2’>:1000×10−6m3/m3(1000ppm)を用いる。
B〜H:汚染源が人間だけでない場合の基本必要換気量の算定方法を示している。
B:汚染源がn種類あれば、このすべての発生源に対して発生する汚染質の種類・量をすべて充分に調べる。
C:発生する汚染質の種類・量のすべてがわかる汚染源(開放式燃焼器具の一部)もあれば、そうでない汚染源(人間、煙草、開放式燃焼器具の一部)もあるのが現状である。後者については、総合的指標を用いた換気量の算定が必要であるのでこのような汚染源を区別し、該当する汚染源の種類の数(m)を求める。
D〜E:発生する汚染質の種類・量のすべてはわからない汚染源(人間、煙草、開放式燃焼器具の一部)について、総合的指標を用いた換気量の算定を行う。本規準ではCOを総合的指標としているので、上記のような汚染源からのCO発生量をDのように集計し、これから換気量をEで算出する。この時、総合的指標の設計基準濃度はCi<CO2’>:1000ppmを用いる。
F〜G:ここでは本文の表−1に挙げた9種類の汚染質を単独指標とした場合の換気量を求める。すなわち、この9種類の汚染質について、各汚染源から発生する量を集計する。次にこの値と単独指標としての設計基準濃度から各汚染質毎に換気量を求める。
H:Eで求めた総合的指標による換気量と、Gで求めた9種類の汚染質を単独指標とした換気量のうち、最大値を求めてこれを基本必要換気量とする。
(6)その他の留意事項
 近年、省エネルギ−の観点から、大空間に対する空調運転開始時や在室人員の変動が大きい空間等に対して、二酸化炭素濃度を感知してその空間に対する換気量を制御する手法が採用されている。本章で規定している必要換気量は、汚染質濃度を設計基準濃度以下に保つためのものであるので、換気量がここで規定する定常状態を前提とする必要換気量より少なくても、汚染質濃度を設計基準濃度以下に保てる保証があれば、本規準はこのような手法の適用を妨げるものではない。ただし、本規準で対象としている汚染質は二酸化炭素だけではなく、4.2に示す9種類であることに注意しなければならない。


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