基本必要換気量と設計必要換気量の考え方と算出方法
屋内の汚染質設計基準濃度と外気の質
(1)住宅や事務所などの居室において想定される汚染質とその設計基準濃度を表−1に示す。なお、ここに示す以外の汚染質がある場合には、設計時にそれらの発生量と外気濃度を調べ、対象汚染質の濃度が日本産業衛生学会の許容濃度の勧告に定める労働環境における基準値の1/10以下となるように換気量を決定する。
表-1 室内空気汚染の設計基準濃度
(a)総合的指標としての汚染質と設計基準濃度
汚染質 | 設計基準濃度 | 備考 |
---|
二酸化炭素*1 | 1000ppm | ビル管理法*2の基準を参考とした |
(b)単独指標としての汚染質と設計基準濃度
汚染質 | 設計基準濃度*3 | 備考 |
---|
二酸化炭素 | 3500ppm | カナダの基準を参考とした。 |
一酸化炭素 | 10ppm | ビル管理法のの基準を参考とした。 |
浮遊粉塵 | 0.15mg/m3 | (同上) |
二酸化窒素 | 210ppb | WHO*2の1時間基準値を参考とした。 |
二酸化硫黄 | 130ppb | WHOの1時間基準値を参考とした。 |
ホルムアルデヒド | 80ppb | WHOの30分基準値を参考とした。 |
ラドン | 150Bq/m3 | EPA*2の基準値を参考とした。 |
アスベスト | 10本/リットル | 環境庁大気汚染防止法の基準を参考とした。 |
総揮発性有機化合物(TVOC) | 300μg/m3 | WHOの基準値を参考とした。
注
*1 ここに示した二酸化炭素の基準濃度1000ppmは、室内の空気汚染の総合的指標としての値であって、二酸化炭素そのものの健康影響に基づくものではない。すなわち、室内にある各種汚染質の個別の発生量が定量できない場合に二酸化炭素の濃度がこの程度になれば、それに比例して他の汚染質のレベルも上昇するであろうと推定する場合に用いる。室内にあるすべての汚染質発生量が既知であり、しかも、その汚染質の設計基準濃度が設定されている場合には、総合的指標である二酸化炭素の基準値1000ppmを用いる必要はない。その場合は、二酸化炭素自体の健康影響に基づく値、3500ppmを用いることができる。
*2 建築物環境衛生管理基準をビル管理法、世界保健機構をWHO、米国環境保護庁をEPAと記した。
*3 設計基準濃度のうち[ppm]、[ppb]で記したものは、質量濃度を25℃、1気圧おいて体積濃度に換算したものである。
(1)本規準が対象とする汚染質
本規準が対象とする汚染質は、本文(1)に示すとおりである。
これらに加え、開放式燃焼器具などから生じる水蒸気や排熱も汚染質に加えるべきであるという考え方もある。排熱や水蒸気は室内の温度や湿度に影響を与えることになるが、温湿度は一般的な汚染質とは異なり低ければ低いほど良いと言うものではないこと、建物の内外の温湿度や構成部材の熱・湿気性状などの条件も絡んでおり、換気単独で処理できない側面を持っていること等の理由により、本規準における汚染質からは除外した。
(2)許容濃度、環境基準濃度および設計基準濃度の意味
日本産業衛生協会の許容濃度検討委員会の勧告4)によれば、許容濃度とは、「労働者が有害物質に連日暴露する場合に当該有害物質の空気中濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に悪影響が見られぬ濃度である」としている。また、「個人の有害物質への感受性は個人によって異なるので、この値以下であってもある特別の労働者にとっては、不快、潜在的異常状態の悪化および職業病の防止には役立たないこともあろう」と但し書きも付けている。
環境基準は、工場や鉱山のような作業場などの「労働環境」と住宅や事務所などの「一般環境(非労働環境)」とでは、設定の考え方が異なっている。「労働環境」における基準は、そこで働く人は、健康な成人で、限られた労働時間のみその環境にとどまり、それ以外の時間は清浄な環境にいることが前提となっている。また、必要に応じて医師などによるその汚染質を対象とした健康チェックが義務づけられてもいる。これに対し、住宅、事務所などの「一般環境」では、健康な人だけでなく高齢者、幼児などさまざまな居住者が長時間その場所に滞在することを前提として設定されている。したがって、「一般環境」の方が基準はかなり厳しくなるのが普通である。本規準で示す設計基準濃度の考え方はこの「一般環境に対する環境基準」の考え方に対応する。
また、一般環境に関しては、許容濃度が設定されていない汚染質の方が種類が多く、その場合には、労働環境に関する基準値の10分の1を暫定的に用いる場合があるが、すべての物質に対しこの考え方を機械的に適用することはできないので、その都度検討が必要となる。
(3)平均化時間
一般的に、大気の汚染レベルの変動は、風などの変動に比べ遅いので、平均化時間は、通常最も短い場合で1時間程度である。したがって、平均化時間が明記された形で基準が示されている場合には、その時間についての平均濃度が基準値以下であれば良い。これは、長期低濃度暴露による健康影響は慢性的なものであり、その場合は「濃度×時間」のいわば「積分濃度」的な量が健康影響に関係するからである。
一方、室内環境に関しても、基本的には大気の場合と同様の考えで基準が設定されている。しかし室内の場合には、汚染レベルが大気の場合より急激に変動することが多く、急激な濃度上昇による急性の健康影響が問題となり、上述の積分濃度ではなく「濃度」そのものの絶対値が重要となってくることも多い。特に、窒素酸化物や硫黄酸化物、ホルムアルデヒドなどのような刺激性の急性影響がある汚染質の場合は問題である。WHOの室内環境基準のうち二酸化窒素については1時間平均値(短期の高濃度による急性影響に対処)と、24時間平均値(長期の慢性影響に対処)の2とおりの基準が設けられている。
短い方の平均化時間の基準値は「天井値」とも呼ばれ、この値は一瞬たりと言えども超えてはならない。ここで言う「一瞬」とは、濃度を測定する際の平均化時間より短い時間ではあり得ないため、現状では短い場合でも10分、通常は30分から1時間程度であり、この程度の長さの時間で平均された濃度を「天井値」以下に維持することとなる。本規準では短期の基準濃度を採用している。したがって、窒素酸化物や硫黄酸化物、ホルムアルデヒドなどのように刺激性の急性影響がある汚染質の場合は、本規準をぎりぎりで満足する状態が長時間にわたって続くことがないような設計を行うことが望ましい。
以上のように許容濃度、各種環境基準を考慮しつつ、換気の設計に際し基準とするべく採用した室内空気質を本規準では「設計基準濃度」と呼ぶ。
(4)二酸化炭素(CO2)の設計基準濃度
一般環境に関しては、二酸化炭素は空気の汚れの指標として扱われ、我国のいわゆるビル管理法5)では、1000ppm以下と規定されている。これは二酸化炭素そのものの健康影響に基づくものではなく、二酸化炭素が、1000ppmを超えるような環境では、他の汚染質の濃度もそれに比例して悪化しているというこれまでの環境監視の実績を踏まえたものである。以上を考慮して、本規準においては空気の汚れを表わす総合的な指標としての二酸化炭素の設計基準濃度として1000ppmを採用する。なお、学校の場合は基準値が1500ppmという緩和措置がとられているが6)、本規準においてはこのような緩和措置は考慮しない。
一方、二酸化炭素そのものの健康への影響が現れる最低濃度は7000ppmと言われている7)。またカナダでは、住宅における室内環境基準として3500ppmという値が設定されているので7)、本規準としては暫定的にこの値を二酸化炭素の単独指標の設計基準濃度として採用する。
(5)一酸化炭素の設計基準濃度
一酸化炭素に関する室内環境基準値としては、ビル管理法において、10ppm以下と規定されている。よって、本規準においてもその値を設計基準濃度として採用するのが適当と考える。
(6)浮遊粉じんの設計基準濃度
浮遊粉じんに関する室内の環境基準値としては、ビル管理法において、0.15mg/m3以下と規定されている。よって、本規準においてもその値を設計基準濃度として採用するのが適当と考える。
(7)窒素酸化物および硫黄酸化物の設計基準濃度
両物質に関する一般環境室内の基準は現在までのところ我国にはないので、WHO(世界保健機構)の環境基準値8)、 9)(平均化時間1時間、原文では各々400μg/m3と350μg/m3と書かれており、これをppbに換算すると、210ppbと130ppbとなる)を参考にして設計基準濃度を定めるのが適当と判断した。
(8)ホルムアルデヒドの設計基準濃度
ホルムアルデヒドに関する一般環境室内における基準値は、現在までのところ我国には設定されていない。しかしながら、WHOにおいては、ホルムアルデヒドに関する一般環境室内基準10)を0.08ppm(原文では、100μg/m3)と定めており(平均化時間30分)、本規準においてもこの値を設計基準濃度として採用することが妥当と考える。
(9)ラドンの設計基準濃度
ラドンに関する一般環境における基準値は、現在までのところ我国には設定されていない。しかしながら、EPA(米国環境保護庁)は、ラドンに関する一般環境室内基準11)として150Bq/m3と規定しているので、これを本規準においても設計基準濃度として採用することが妥当と考える(Bq/m3(Bqはベクレルと読む)は放射能濃度と呼ばれ、1Bq/m3は空気1m3当たり1秒間に1回のα線の放射があることを示す。なお、原文では、4pCi/リットル(pCiはピコキュリ−と読み、放射能濃度の旧単位)と書かれている。1pCi/リットルは、純粋のラジウム1gが放出するのと同じ強さの放射能が放出されることを表わす。ラドンガスの場合1pCi/リットルは37Bq/m3に相当する)。
(10)アスベストの設計基準濃度
アスベストに関する一般環境室内の基準は現在までのところ我国にはないので、大気汚染の環境基準12)を参考にして、それに準じた値を本規準においても設計基準濃度として採用することが妥当と考える。
(11)TVOCの設計基準濃度
TVOC(総揮発性有機化合物)は、比較的最近注目されるようになった物質であるため、有害性などに関する研究は他の物質に比べて進んでおらず、これに関する一般環境室内における基準値は、現在までのところ我国には設定されていない。しかし、WHOは、300μg/m3を目標値としているので13)、この値を本規準においても設計基準濃度として採用することが妥当と考える。
(2)取り入れ外気の汚染質濃度は、当該場所において、信頼性の高い測定機により日平均値を測定し、その年間98%値をもって外気濃度の設計値とする。これが困難な場合には環境庁大気保全局大気規制課発行”一般環境大気測定局測定結果報告”の最新版の中から当該場所に最も近い地点のデ−タの中の、日平均値の年間98%値を設計値とする。なお、極く限られた地域では上記の手続きにより求めた外気濃度の設計値が設計基準濃度を上回る事態が発生することが想定される。そのような場合には外気導入に際し、当該汚染質の濃度が設計基準濃度以下になるような適切な空気浄化装置を設置することが望ましい。
なお、同上の大気環境測定結果には、一酸化炭素、窒素酸化物、二酸化硫黄、粉塵、光化学オキシダントについてのみ記載されている。これら以外の物質については、公表された資料より、日平均値の年間98%値に準ずる値を得て、これを暫定的な取り入れ外気の汚染質濃度とする。
取り入れ外気の汚染質濃度は信頼性の高いデ−タを用いるべきである。最も信頼できるデ−タは当該場所で測定した値であるが、現状では必ずしもこのようなデ−タが得られるとは限らない。環境庁大気保全局大気規制課は、全国各地における一酸化炭素、浮遊粉じん、窒素酸化物、二酸化硫黄、光化学オキシダントのモニタ−を行い、毎年その結果を報告書14)としてまとめており、取り入れ外気の汚染レベルとしてこのデ−タを用いるのが妥当であると考えられる。
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