o 完全混合濃度に基づく基本必要換気量

o 燃焼器具に対する基本必要換気量

5.1 完全混合濃度に基づく基本必要換気量
5.1.3 燃焼器具に対する基本必要換気量
 居室に開放式燃焼器具がある場合は、これを汚染源として基本必要換気量を算定する。その際には、発生する汚染質の種類・量のすべてが明確な場合と、発生する汚染質の種類・量の全ては明確でない場合に区別して基本必要換気量を算定する。
 発生する汚染質の種類・量の全てが明確な開放式燃焼器具については、燃焼ガス中の各汚染質を対象として基本必要換気量を算出する。すなわち、表−1に示した9種類の汚染質について、器具からの発生量と単独指標としての設計基準濃度から換気量を個々に算出し、これらのうちの最大値を基本必要換気量とする。
 発生する汚染質の種類・量のすべては明確でない開放式燃焼器具については、総合的指標である二酸化炭素の設計基準濃度(1000ppm)と二酸化炭素の発生量から換気量を算出する。さらに発生量の分かっている汚染質について単独指標としての設計基準濃度から換気量を算出する。これらのうちの最大値を基本必要換気量とする。
 ただし、一般的な開放式燃焼器具で発生する汚染質の種類・量のすべては明確でない場合に対して下記の参考値*1を用いて基本必要換気量を算定することができる。 参考値からも分かるとおり開放式燃焼器具を室内で使用すると多量の換気が必要になる。また下記の参考値は開放式燃焼器具のみに対する値であり、通常は人間など他の汚染源が同時に存在するので、5.1.5に示す方法で基本必要換気量を算定しなければならない。
 なお、排気筒、フ−ドなどの燃焼ガス排気装置が設置されている場合は、それらの廃気捕集率などの性能に応じて設計必要換気量を決めることができる(5.2参照)。
*1一般的な開放式燃焼器具で発生する汚染質の種類・量のすべては明確でない場合の基本必要換気量の参考値
都市ガス:1kW当たり145m/h(1000kcal/h当たり169m/h)
液化石油ガス:1kW当たり167m/h(1000kcal/h当たり194m/h)
灯油:1kW当たり185m/h(1000kcal/h当たり215m/h)
 ここで言う燃焼器具とは、居室で使用される暖房器具、食堂で使われる卓上型一口コンロ、カセットコンロなどで、都市ガス、液化石油ガスあるいは灯油などの燃料を用い、その燃焼ガスが室内に排出される開放式器具である。台所・業務用ちゅう房などの付室・施設室については6.を参照すること。
 開放式燃焼器具から排出される燃焼ガス中には人体の健康に影響がある二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄などの汚染質が含まれる。これらに対して表−1に示す単独指標としての設計基準濃度から算定される換気量を確保しなければならない。また、汚染質の発生は確認されているが、その発生量がわかっていない場合がある。このような場合は総合的指標である二酸化炭素の設計基準濃度(1000ppm)に基づいた換気量を確保しなければならない。
 本規準で示した参考値の算出根拠などを以下に説明する。
 先ず表−7に各燃料の燃焼量1kW当たりの理論燃焼ガス量*2、理論乾燥燃焼ガス量*3および二酸化炭素発生量を示す21)

表−7  燃焼量1kW当たりの理論燃焼ガス量、理論乾燥燃焼ガス量および二酸化炭素発生量
燃料の種類理論燃焼ガス量[m/h]理論乾燥燃焼ガス量[m/h]二酸化炭素発生量[m/h]
都市ガス0.940.770.094
液化石油ガス0.920.770.108
灯油0.950.820.12
注:表中の数値は0℃、1気圧における値(Nm/h)である。

(1)都市ガスを燃料とする開放式燃焼器具
 都市ガスを用いた開放式燃焼器具は、発生する汚染質の種類・量のすべてが明確である場合とそうでない場合があり、これらを区別して基本必要換気量の参考値を以下に示す手順で算出した。また、基本必要換気量は燃焼量1kW当たりの値を示した。
 発生する汚染質の種類・量のすべては明確でない場合の参考値
 ここでは二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素の発生量はわかっているが、その他の汚染質で種類・発生量が特定できないものが発生する可能性がある場合について基本必要換気量の参考値を算出する。
 まず総合的指標として二酸化炭素(1000ppm)についての換気量を求める。取り入れ外気の二酸化炭素濃度が350ppmの場合、表−7に示す二酸化炭素発生量から
p<CO2’>=0.094[m/h]/((1000−350)×10−6[m/m])=144.6[m/h]    ・・・(11)
 次に一酸化炭素についての換気量を求める。通常の燃焼時における排出濃度は理論乾燥燃焼ガス(1kW当たり0.77m/h)*3中で、ファンヒ−タ−で90〜120ppm、コンロで300〜400ppmのものが多い。400ppmを代表値とすると、一酸化炭素発生量は、400×10−6×0.77m/h=308×10−6/hで取り入れ外気の一酸化炭素濃度が0ppmの場合、次式のように一酸化炭素に対する必要換気量が求められる。
p<CO>=308×10−6[m/h]/((10−0)×10−6[m/m])=30.8[m/h]   ・・・(12)
 次に二酸化窒素についての換気量を求める。通常の燃焼時における排出濃度は理論乾燥燃焼ガス中で10〜20ppmのものが多い。20ppmを代表値とすると、二酸化窒素の発生量は、20×10−6×0.77m/h=15.4×10−6/hであり、また、大気中濃度が0.06ppmの場合、次式のように二酸化窒素に対する必要換気量が求められる。
p<NO2>=15.4×10−6[m/h]/((0.21−0.06)×10−6[m/m])=102.7[m/h]   ・・・(13)
 したがって上記で求めた換気量のうち最大値である144.6m/h(燃焼量1kW当たり)の小数点以下を切り上げて145m/hを基本必要換気量の参考値として採用した。

b 発生する汚染質の種類・量のすべてが明確である場合の試算例
 ここでは二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素の発生量がわかっており、また、その他の汚染質は全く発生しないか、発生するとしても極めて微量で二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素から求めた換気量を確保すれば全く問題がないことが充分確認されている場合の基本必要換気量の試算例を示す。
 二酸化炭素を単独指標(3500ppm)とした場合の換気量を求める。取り入れ外気の二酸化炭素濃度が350ppmの場合、表−7に示す二酸化炭素発生量から、
p<CO2>=0.094[m/h]/((3500−350)×10−6[m/m])=29.8[m/h]   ・・・(14)
 また、一酸化炭素についての換気量は(12)式で示したものと同様な場合、30.8m/hであり、二酸化窒素についての換気量は(13)式で示したものと同様な場合、102.7m/hである。
 したがって上記で求めた換気量のうち最大値は二酸化窒素に対する値102.7m/h(燃焼量1kW当たり)であり、上記の例ではこの値が基本必要換気量となる。

(2)液化石油ガスを燃料とする開放式燃焼器具
 液化石油ガスを用いた開放式燃焼器具についても都市ガス同様、発生する汚染質の種類・量のすべてが明確である場合とそうでない場合があり、これらを区別して基本必要換気量の参考値を以下に示す手順で算出した。
a 発生する汚染質の種類・量のすべては明確でない場合の参考値
 ここでは二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素の発生量はわかっているが、その他の汚染質で種類・発 生量が特定できないものが発生する可能性がある場合について基本必要換気量の参考値を算出する。
 まず総合的指標として二酸化炭素(1000ppm)についての換気量を求める。取り入れ外気の二酸化炭素濃度が350ppmの場合、表−7に示す二酸化炭素発生量から
p<CO2’>=0.108[m/h]/((1000−350)×10−6[m/m])=166.2[m/h]   ・・・(15)
 また、一酸化炭素についての換気量は(12)式で示した都市ガスと同様の場合、30.8m/h、二酸化窒素についても(13)式で示した都市ガスと同様の場合、102.7m/hである。
 上記で求めた換気量のうち最大値は166.2m/h(燃焼量1kW当たり)であり、小数点以下を切り上げて167m/hを基本必要換気量の参考値として採用した。
b 発生する汚染質の種類・量のすべてが明確な場合の試算例
 ここでは二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素の発生量がわかっており、また、その他の汚染質は全く発生しないか、発生するとしても極めて微量で二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素から求めた換気量を確保すれば全く問題がないことが充分確認されている場合の基本必要換気量の試算例を示す。
 二酸化炭素を単独指標(3500ppm)とした場合の換気量を求める。取り入れ外気の二酸化炭素濃度が350ppmの場合、表−7に示す二酸化炭素発生量から
p<CO2>=0.108[m/h]/((3500−350)×10−6[m/m])=34.3[m/h]   ・・・(16)
 また、一酸化炭素についての換気量は(12)式で示した都市ガスと同様の場合、30.8m/h、二酸化窒素についても(13)式で示した都市ガスと同様の場合、102.7m/hである。
 上記で求めた換気量のうち最大値は二酸化窒素に対する値102.7m/h(燃焼量1kW当たり)であり、上記の例ではこの値が基本必要換気量となる。

(3)灯油を燃料とする開放式燃焼器具
 灯油を用いた開放式燃焼器具についても都市ガス、液化石油ガス同様、発生する汚染質の種類・量のすべてが明確である場合とそうでない場合があり、これらを区別して基本必要換気量の参考値を以下に示す手順で算出した。
a 発生する汚染質の種類・量のすべては明確でない場合の参考値
 ここでは二酸化炭素の発生量はわかっているが、一酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄などの発生量がわからない場合について基本必要換気量の参考値を算出する。
 総合的指標として二酸化炭素(1000ppm)についての換気量を求める。取り入れ外気の二酸化炭素濃度が350ppmの場合、表−7に示す二酸化炭素発生量から
p<CO2’>=0.12[m/h]/((1000−350)×10−6[m/m])=184.6[m/h]   ・・・(17)
 したがって184.6m/h(燃焼量1kW当たり)の小数点以下を切り上げて185m/hを基本必要換気量の参考値として採用した。
b 発生する汚染質の種類・量のすべてが明確である場合の試算例
 ここでは二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素、二酸化硫黄の発生量がわかっており、また、その他の汚染質は全く発生しないか、発生するとしても極めて微量で二酸化炭素、二酸化窒素、一酸化炭素、二酸化硫黄から求めた換気量を確保すれば全く問題がないことが充分確認されている場合の基本必要換気量の試算例を示す。
 二酸化炭素の単独指標(3500ppm)に基づいた換気量を求める。取り入れ外気の二酸化炭素濃度が350ppmの場合、表−7に示す二酸化炭素発生量から
p<CO2>=0.12[m/h]/((3500−350)×10−6[m/m])=38.1[m/h]   ・・・(18)
 一酸化炭素の発生量は、開放式石油器具について日本工業規格(JIS S 2016、JIS S 2019 およびJIS S 2036)で”燃焼廃ガス中の一酸化炭素と二酸化炭素の比(CO/CO)は0.002以下”と規定されており、この値を用いると0.12m/h×0.002=0.24×10−3/hとなる。取り入れ外気の一酸化炭素濃度が0ppmの場合、次式のように一酸化炭素に対する必要換気量が求められる。
p<CO>=0.24×10−3[m/h]/((10−0)×10−6[m/m])=24.0[m/h]   ・・・(19)
 二酸化窒素の発生量は、強制通気形開放式石油スト−ブ(通称ファンヒ−タ)について(財)日本燃焼器具検査協会の”二酸化窒素排出量に関する検査基準(暫定)”により21×10−9/kcalと規定されており、これを燃焼量1kW当たりに換算すると18.1×10−6/h(=21×10−9/kcal×860kcal/h)となる。大気中濃度が0.06ppmの場合、次式のように二酸化窒素に対する必要換気量が求められる。
p<NO2>=18.1×10−6[m/h]/((0.21−0.06)×10−6)[m/m])=120.7[m/h]   ・・・(20)
 また、ファンヒ−タ以外の開放式石油器具についても二酸化窒素の発生量は同程度である。
 二酸化硫黄についての換気量を求める。灯油中の硫黄成分は通商産業省令92号(平成7年10月31日官報号外第208号第27条)において0.008%以下とするように規定されている。この規定の数値に基づいて二酸化硫黄の発生量を算出する。灯油の発熱量は43.12MJ/kg(10300kcal/kg)であり、また、1kW当たりの灯油の消費量は83.49g/hである。このうちの硫黄の重量は0.006679g/h(=83.49g/h×0.00008)以下であり、これがすべて二酸化硫黄として排出されるとすると最大4.675×10−6/hの二酸化硫黄の発生がある。取り入れ外気の二酸化硫黄濃度が10ppbの場合、次式のように二酸化硫黄に対する必要換気量が求められる。
p<SO2>=4.675×10−6[m/h]/((126−10)×10−9[m/m])=40.3[m/h]   ・・・(21)
 上記で求めた換気量のうち最大値は二酸化窒素に対する値120.7m/h(燃焼量1kW当たり)であり、上記の例ではこの値が基本必要換気量となる。
(注意)同じ燃料を用いたとしても、一酸化炭素、二酸化窒素などの発生量は器具およびその燃焼状態により異なる。一酸化炭素、二酸化窒素の排出量などが、参考値の算出に用いた値を上回る場合は、使用する器具の排出量に応じた基本必要換気量を求めなければならない。一方、燃焼器具からの各汚染質の排出量が測定等により明確な場合には、それらの値を用いて基本必要換気量を求めることができる。
 また、開放式暖房器具を室内で用いると多量の換気が必要になり、省エネルギ−の観点からこのような器具の使用は推奨されない。例えば、床面積10mの居室で2.33kW(2000kcal/h)の開放式ファンヒ−タ(都市ガスを燃料)を暖房器具として使用した場合、基本必要換気量は約240m/h、換気回数にして約10回/hとなる。このように大量の外気導入が必要になる一方で暖房のためにこの外気を暖めなければならないという不合理が生じることになる。したがって密閉式暖房器具を選択することが好ましい。
 *1 建築基準法施行令(建設省告示第1826号)では、5000kcal/h以上の燃焼量の開放式器具に対する換気量を理論燃焼ガス量の40倍と定めている。この値は、不完全燃焼防止のための酸素濃度の下限値を20.5%と決め、外気の酸素濃度を21%として、次式から計算される。
P<CO2>=Ath×21%/(21%−20.5%)=42×Ath[m/h]≒40kQ   ・・・(22)
 ここに、Ath:燃焼のための、単位時間当たりの理論空気量[m/h]
     kQ:理論燃焼ガス量[m/h] (k:燃料の単位燃焼量当たりの理論燃焼ガス量[m/MJ], Q:単位時間当たりの燃料消費量[MJ/h])
 建築基準法施行令では不完全燃焼防止の観点から、酸素濃度を指標として必要換気量を規定しているが、本規準においては汚染質発生量と室内環境の設計基準濃度に基づいて必要換気量を規定するという考え方を採用している。施行令にしたがって換気量を40kQとした場合、室内二酸化炭素濃度は取り入れ外気濃度よりも2550〜3000ppm増加し、2900〜3500ppmになる。このことは本規準における単独指標としての二酸化炭素設計基準濃度3500ppmに基づいて算出した二酸化炭素に対する必要換気量に対応し、その数値もほぼ整合している。本規準では、開放式燃焼器具に対する必要換気量は二酸化炭素だけでなく発生する汚染質すべてに対して換気量を算定する必要がある。一般に用いられる燃料に関しては多くの場合、参考値として示したように二酸化窒素の発生量で基本必要換気量が決められるので、建築基準法施行令で要求される換気量(40kQ)よりも本規準が要求する換気量のほうが大きくなる。
*2 燃料が理論空気量で完全燃焼したときに発生する理論上の燃焼ガス量を理論燃焼ガス量という。
*3 理論燃焼ガスから水蒸気を除去したものを理論乾燥燃焼ガスという。燃焼ガスの成分は燃焼ガス中の水蒸気を除去した乾燥状態で測定されるので、汚染質発生量は理論乾燥燃焼ガス中の汚染質濃度と理論乾燥燃焼ガス量の積で表わされる。



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