o 汚染質の室内混合性状に基づく設計必要換気量

o 完全混合状態でない場合の設計必要換気量

5.2 汚染質の室内混合性状に基づく基本必要換気量
5.2.2 完全混合状態でない場合の設計必要換気量
 室内の汚染質の混合状態が定常完全混合でない場合には、汚染質濃度の空間分布や時間的変動を考慮して、以下に示す手順で設計必要換気量を求める。
(1)居住域の設定
 人が居住し活動するための領域である居住域を設定する。また居住域の汚染質濃度は、ここで求める設計必要換気量を確保することによって設計基準濃度以下であることが保証される。
(2)室形状、換気方式、汚染質発生位置などの設定
 居住域の汚染質濃度を求めるために、室形状や換気方式などを設定する。また全般換気を行う場合は、汚染質発生は室内あるいは居住域で一様に発生するものと想定する。局所換気を行う場合は汚染質発生位置および局所換気方式を設定する。
(3)規準化居住域濃度の算定
 規準化居住域濃度Cは、定常完全混合状態を仮定した場合の室内汚染質濃度上昇(C−C)に対する居住域平均濃度上昇(C−C)の比であり、次式により定義される。
   C=(C−C)/(C−C)   ・・・(33)
 ただし、
  C:取り入れ外気の汚染質濃度[m/m
  M:汚染質発生量[m/h]
  C:規準化居住域濃度[−]
  C:定常完全混合状態を仮定した汚染質濃度(=M/Q+C)[m/m
  Q:基本必要換気量[m/h]
  C:実際の汚染質混合状態での居住域平均汚染質濃度[m/m
 汚染質の居住域平均濃度Cは、実験やCFD(計算流体力学)により求めることができる。
 また居住域平均空気齢や廃気捕集率などの換気効率指標から算定することも可能である。全般換気の場合、吹出し温度や給排気口性状と室形状などで定まる居住域平均空気齢から規準化居住域濃度の概略値が算定できる。局所換気の場合には、局所排気装置の廃気捕集率などから規準化居住域濃度の概略値が算定できる。ただし、その際に使用する換気効率指標は信頼性の高いものでなければならない。

(4)設計必要換気量の算定
 設計必要換気量Qは居住域の平均汚染質濃度Caを設計基準濃度C以下に保持するための換気量であり、次式を用いて算出する。
  Q=Q×C   ・・・(34)

 気積が大きい場合や間欠使用を行なう場合などは、室内での汚染質濃度の空間分布が生じ、また、汚染質濃度が時間的に変動する。このような室内の汚染質の混合状態が定常完全混合と異なる場合には、室内の空間濃度分布と非定常性を考慮して換気設計を行なう。
(1)居住域の設定
 室内は、居住域とそれ以外の領域に分けられる。居住域は、居室において居住し活動するための領域で、一般に床から180cmの間の空間をいう。本規準で規定する換気は、この居住域の汚染質濃度を設計基準濃度以下にするために行われる。
 室内が定常完全混合状態の場合は、居住域の濃度とそれ以外の領域の濃度は等しいので特に換気設計において居住域を設定する必要はなかったが、室内の汚染質の拡散性状が定常完全混合状態でない場合には、必要換気量を求めるために居住域を設定する必要がある。その際には、居室の使用状況を十分検討し、換気の対象領域としての居住域を慎重に設定する必要がある。
 劇場・アトリウムなどの大空間では、一般の居室に比べ、室内の汚染質濃度の空間分布や時間変動が大きく、また、空間全体に対する居住域の割合が小さいことが多い。このような大空間においては、居住域をどのように設定するかが、合理的な換気計画を行なう上で特に重要となる。
(2)室形状、換気方式、汚染質発生位置などの設定
 規準化居住域濃度Cnは室内の汚染質の拡散状況により定まる。また、その拡散状況は周囲の気流分布(換気の性状)と汚染質の発生位置により定まる。すなわち規準化居住域濃度を求めるためには、室形状、給排気方式などの他に汚染質の発生位置に関しても妥当な想定が必要となる。全般換気の場合は、一般に汚染質発生位置を特定することが困難あるいは意味がないことは多い。この場合、汚染質発生は空間一様、もしくは居住域一様発生などを仮定するのが一般的となる。一方、局所換気は汚染質発生位置が特定される場合に用いられる換気方式であり、レンジフ−ド下の燃焼廃気などは一般に発生位置と局所排気装置位置を明らかに特定できる。

(3)規準化居住域濃度の算定
 室内の汚染質の居住域平均濃度は、室形状、換気方式、汚染質発生位置が特定されれば、実験あるいはCFD(計算流体力学)などにより求めることができる。ただし、これらの方法により居住域平均濃度を求めるためには、実験に関してはトレ−サ−ガス実験に関する深い専門知識、CFDに関してもCFDシミュレ−ションに関する十分な知識が必要とされる。
 一方、居住域平均濃度は空気齢や局所排気装置の廃気捕集率などの換気効率指標から評価することも可能である。

例1 汚染質が室内で一様に発生する場合の規準化居住域濃度
 汚染質が室内空間で一様発生すると見なす場合の規準化居住域濃度Cnは空気齢などの換気効率指標を用いて、次式で評価することができる。
  C=T/T   ・・・(35)
 ここに、Tv:居住域平均空気齢[h]
     Tn:名目換気時間[h]
 ここで、空気齢は取り入れ外気(新鮮外気)の室内給気口からの平均到達時間によって測られ、居住域平均空気齢Tはその居住域空間での平均となる。名目換気時間Tは、換気回数の逆数である。
 室内で汚染質が一様発生する場合、室内の汚染質濃度分布は給気口からの取り入れ空気の平均到達時間(取り入れ外気の空気齢)の室内分布に対応することが知られている29),30)。すなわち室内に汚染質が空間で一様に発生する場合、室内の平均汚染質濃度は室内空間平均空気齢、居住域の平均汚染質濃度は居住域平均空気齢によって表わされる。米国ASHRAEは、この観点から居住域平均空気齢を室の換気効率を表わす代表的な指標としている29)。各種室内における居住域の平均空気齢や規準化居住域濃度の具体的な値は、トレ−サ−ガス法による実測例P22),24),27),28)や欧州換気規格案31)の参考図(図−2)などが参考になる。


例2 局所排気装置を用いた場合の規準化居住域濃度
 局所排気装置により汚染質の多くが直接排気される場合、室内に拡散する汚染質量が低減されるので、居住域の汚染質濃度は、完全混合状態に比べて低い値となる。このような場合、規準化居住域濃度Cは、次式で定義される局所排気装置の廃気捕集率ηにより推定できる。
 η=(C×V)/M   ・・(36)

ここに、
  η:廃気捕集率[−]
  C:排気中の汚染質濃度[m/m
  V:局所排気装置の排気風量[m/h]
  M:汚染質発生量[m/h]
 局所排気装置により捕集されず、室内へ拡散する汚染質量は、廃気捕集率ηを用いると(1−η)×Mで表わされ、これを実質的な汚染質発生量と見なすことができる。したがって、(1−η)×Mを汚染質発生量として、本文(33)式中の居住域平均汚染質濃度(C)や完全混合状態を想定した場合の濃度(C)を求め、これらを(33)式に代入することにより、規準化居住域濃度Cが求められる。ただし、ここでは、局所排気装置で捕集されず室内へ拡散する汚染質のみについて考えているが、室内の他の場所で発生する汚染質についても当然考慮する必要がある。
 なお、廃気補集率ηは排気風量(すなわち換気量)の関数であるので排気風量(換気量)が変わればηも変化する。また、汚染質発生点、局所排気装置近傍に外乱の影響がある場合には、廃気捕集率が実験により求めた値から極端に低下する場合25),26)があるので廃気補集率ηの選定には十分な注意が必要である。



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